以前、東京・神田の古書店の店先で、ワゴンに山積みにされていた古本の中に、ちょっと面白い本を見つけた。昭和50年頃に発行されたもので、「男のおしゃれ」について語られたものだった。
昭和50年といえば西暦で1970年。男性が自分の見た目をあれこれ気にする時代では、まだまだなかった。だがその本の中では服飾やヘアメイク、タバコやアクセサリー、さらには美容医療の専門家までが執筆陣に名を連ね、男のおしゃれについて語っていた。当時としては意欲的な一冊だったことだろう。
なぜか興味を惹かれ、パラパラとページを繰ってみると、腕時計について書かれた一節に「腕時計は36,500円以上のものを買え」という一文があった。妙な主張ではあるが、その理由というのは、こうだ。
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“たとえば外出中など、時計のない場所で時間を知る必要に迫られたとする。腕時計がなければ、とりあえず手近な公衆電話を見つけて、117番で時報を聞く。それが一日平均10回あるとして、一年で3650回。時報を聞くのに1回10円かかるから、合計で36,500円かかる計算になる…つまり時計の実用的価値は36,500円で、それ以上がアクセサリー、男の道具としての値打ちなのである…”
だから時計をファッションアイテムとして考えるなら、実用的価値以上の価格のものを選べ、というわけだ。かなり大雑把なうえに強引だが、妙に納得してしまう理屈ではある。
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