Factory Creating Excitement

エキサイティングの生み出される現場を訪ねて

この項でもご紹介したエキゾティックカー・ビルダー「パガーニ」の本社を、幸運にも訪れる機会を得た。場所はイタリア北部のモデナである。
同社社屋は一階がショウルームと第一工場、二階がオフィスと設計室になっているのだが、若いスタッフはみなフレンドリーで、にこやかに応対してくれる。見たいところはどこでも見ていい、と社内をくまなく案内してくれ、工場にも立ち入ることができた。
ここでは顧客から預かった車の修理やパーツ作りがメイン。スタッフの面々は実に楽しそうに、だが黙々と真摯に作業をこなしていく。
静かで明るく、自動車工場というイメージとはほど遠い。何か、巨大な芸術作品の製作現場であるかのような、そんな空気を感じるのだ。
「車で5分ほどのところに、新工場があるんだ。そこも見ていくかい?」
もちろん、見ずに済ます法はない。陽気なスタッフの車に乗り込み、第二工場へと向かう。

一台一台が圧倒的な存在感を放つのは、パガーニの車すべてにいえること。その生い立ちを知れば、それも納得。
究極のゾンダ・レボリューション。なんと日本人によるオーダーでプライスは300万ユーロ。今年のジュネーブショーに出展された後、日本へ送られる。

自分の手がけるプロセスが、どのようなパフォーマンスを生み出すのか。スタッフはみな、それを熟知しているようだ。


Skilled Craftsmen - Constant Efforts to Make Dream Come True

パーツたちの夢を黙々と組み上げる熟練の職人の手




第二工場では新車の組立が中心。だがやはり工場内は明るく静かだ。「すべてが手作り」のパガーニでは、そもそも産業ロボットの出番が無い。出来上がってきたパーツひとつひとつを人の手が吟味し、取りつけ、その具合を確認していく。不具合があれば、その場で修整し解決する。顧客のオーダーにどこまでも応えるパガーニでは、「完全な同仕様」というケースは無い。ひとつひとつの車が固有のものであり、それぞれに合わせたパーツが組み付けられ、調整が行われる。熟練の職人の手によって、である。 柔らかく鈍い光を放つアルミ合金。鮮やかな虹色に輝く灼けたチタニウム。凄みすら感じさせる漆黒のカーボンファイバー。金色の華を振りまくマグネシウム。さまざまな素材で作られたさまざまなパーツが、静かにセットアップの時を待っている。やがて一体となって大地を疾駆する、その一瞬を夢見て。そして黙々と動くメカニックたちの手によって、その夢が少しずつ形を現していく。

Delight Yourself in Ecstasy of Velocity

体感し、体に刻みつける速度のエクスタシー


どれほどの高速域でも毛ほどの不安も感じさせないウアイラ。「操る楽しさ」もひとしおだろう。
こうして生み出されるパガーニ「ウアイラ」。その実力はいかばかりなのだろう。どんな走りを見せてくれるのだろう。ミッドシップに据えられたAMGのマッチョなパワートレーン、機能美の極致を見せる足回り。想像はかきたてられるばかりだ。
「知りたいか? なら、乗ってみればすぐに判るさ」
試乗用のウアイラに同乗させてくれるという。ステアリングを握るダビデ氏の隣に乗り込むと、ゆっくりと公道へ出ていく。意外にも、低速時の音と振動はほとんど気にならない。だが広い道に出て、ダビデ氏がアクセルを踏み込んだとたん、世界が一変する。
全身がシートに「グッ」と沈み込み、強烈なGとともに一気に加速する。背後のエンジンは野性を取り戻したかのごとく甲高い雄叫びを上げ、フロントの可動フラップがひんぱんに作動する。
スピードメーターはすでに…あり得ない数字を指しているのだが、タイヤとシャーシを通して路面のグリップが全身に伝わり、図太いトルクがとてつもない勢いで車体を前へ前へと力強く蹴り出していくのが判る。不安はまったくない。遠い風景が一瞬で眼前に引き寄せられ、次の瞬間にははるか後方へと飛び去っていく。自分の手の中で、世界が回っている…そんな感覚だ。永遠と思われるほど長く続く、エキサイティングな一瞬である。
平然とドライビングを楽しむダビデ氏、ニヤリと笑って「Enjoy?」興奮ぎみに「Yes!」と返すと、車はさらに速度を増していった。
イタリア北部のエミリア=ロマーニャ州モデナ県に本社を置くカービルダー。手作りを基本としたエキゾティックカーは、唯一無二の存在としてマニアの注目を集めている。写真に見える本社屋上の日の丸は、おそらく日本から来た私たちへの心配りなのだろう。いかにもイタリアらしい、粋な計らい。
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