Retain Outstanding Uniqueness - Stone Garden at Ryoanji

独特の風情を見せる枯山水の代表格

龍安寺といえば、なんといっても名高いものが「石庭」である。方形の庭に敷き詰めた純白の砂の凛とした美しさ、無造作にも見える庭石の配置の妙。光の加減や眺める角度によってさまざまな表情を見せる姿は、いかにも禅の世界の思想的な奥深さを感じさせてくれる。
広い意味での「枯山水」は、すでに平安時代には存在したいた。だが石庭のような様式は室町時代、禅宗の寺院で採り入れられてから、広く作られるようになったという。だが、誰が最初に始めたものか、なぜこうした様式が生まれたのかは諸説あり、どうもはっきりしていないらしい。
もともと禅宗寺院の様式として、本堂に隣接する庭は儀式の場であり、白砂を敷き詰めていたものだった。だが、その儀式をやがて屋内で行うようになると、清浄な場としての庭の存在意義は薄れてしまう。そこで白砂だけだった庭に手を加え、このような独特の形式が生まれたのだ…という話もある。だがそれにしても「水を使わず、砂と石だけで庭を造る」という発想が、どこから出てきたものかは判らない。おそらくは当時の禅僧の思いつきだったのかもしれないが、その思いつきが今日まで受け継がれ、世界的に知られるようになったというのは大きな驚きでもある。

龍安寺入り口へと繋がる石段の、低い竹垣。いかにも禅寺らしい、侘びた風情を見せる。

陽が差すと、白砂はきらきらと輝き、海の白波を思わせる美しさ。
禅寺の石庭は「思索の場」だという。だがそれは禅僧たちにとって、「遊び」だったのではないか、とも思える。その時々、見る角度によって姿を変える石庭を、何と見るか。岩を洗って激しく流れゆく渓流か。雲海を突き抜けてそびえる高山の頂か。早春の大地を割って顔を出す、芽吹きの姿か。そこにあるものは白砂と岩だけという、きわめてシンプルで象徴的な構成であるだけに、見る者の想像力が入り込む余地は非常に大きい。万丈の山々も、千尋の海の深みも、そこに見出すことができる。中途半端な現実感が存在しないぶん、イマジネーションが妨げられることがない。自分の見たいものをそこに見ることができる。 当時の禅僧は宗教家というよりも思想家であり、学者であった。知的好奇心は旺盛だっただろうし、想像力や洞察力は常人以上のものを持っていただろう。そんな彼らにとって、石庭を使って想像の世界を巡ることは、禅的思索を深める訓練であるとともに、とてもエキサイティングな知的遊戯だったはずだ。

See What is Invisible: Imagination, Creativity

見えないものを見せてくれる逞しい翼

昭和の時代。ケータイもメールもなく、インターネットもなかった。PCは会社の事務所に置いてあるくらいで、「一人一台」という普及率には及びもつかなかった。それでも人々は日々を楽しみ、幸福に暮らしていた。それから30年近い年月が過ぎ、私たちの生活は格段にスピードアップされ、進化し、便利になった。
だが、便利になることと「幸福」、あるいは「喜び」や「楽しみ」は、必ずしも直結しない。不便であるがゆえに必要な手間や時間、見えない部分を想像力で補うことなどが、かえって楽しみを生むことも少なくないのだ。
白砂を敷き詰めた庭園に雄大な山河の光景を映し出すことは、現代の映像技術で可能だろう。それをよりリアルに、立体視させることもできるかもしれない。
だがそれで「凄い技術だな」という驚嘆を得られたとしても「楽しさ」「面白さ」につながるかどうかは疑問だ。むしろ何の変哲もない庭石ひとつをポンと置いたほうが、私たち人間の想像力は大いにかきたてられ、そこから無限の楽しみが広がっていくのである。
人間には「想像力」という逞しい翼がある。その存在を忘れてしまっては、いまここにあるものしか見ることができない。だがその翼を力強く羽ばたかせるとき、千里の彼方を一瞬で飛び越え、見えないものまでも見ることができる。それこそ人間に許された「素晴らしい遊び」なのではないだろうか。
龍安寺の象徴である石庭は、エリザベス女王が1975年に来日した折に見学を希望したことから、世界的に知られるようになった。また石庭以外にも数々の見どころがあり、京都観光のひとつの山場ともなっている。1994年、「古都京都の文化財」を構成するひとつとして、世界遺産リストに登録されている。
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