伏見稲荷といえば「千本鳥居」がその象徴だ。鳥居そのものは山内のいたるところで見ることができるが、それがすき間なく連なったさまはまさに圧巻で、実に画になる風景ともいえる。だがこの千本鳥居の奥深い魅力を感じたいのなら、陽光あふれる日中よりも、夕暮れどきに訪れてみることをおすすめする。
空から少しずつ明るさが消え落ち、そろそろ黄昏の闇が漂ってこようかという時、この千本鳥居をゆっくりと歩いてみる。鳥居の朱色が薄暗がりにくっきりと浮かび、言いようのない妖しい美しさを見せる。この世のものとも思えない鮮やかなトンネルを歩いていくと、そのまま異世界に導かれていくような、そんな錯覚を覚えることだろう。
|
|
もしかすると、ほんの少し先の鳥居の間から、異世界の住人がひょいと顔を出すような…。そんなファンタジックな想像も膨らませてくれるのだ。
冒頭でもお話ししたように伏見稲荷は山全体がひとつの施設であり、聖域となっている。そのため参道を少し外れた場所にも数多くの社があり、数々の神格が祀られている。そしてそれら大小の神々に多くの人々が祈りを捧げる。ある者は精神的な支えを求め、ある者は直接的な現世利益を求めて。そうした人の想いが稲荷山全体を覆い、何か現実離れした雰囲気を形づくっているのではないか…。そのようにも思えてしまうのだ。
|