Other World beyond Boundary

結界の先に広がるアナザーワールドへの誘い

伏見稲荷。日本全国に数万から存在する「稲荷神社」の総本社、つまり寺院でいう「総本山」に位置づけられている。その起源は当然ながら神話の年代にまでさかのぼる。五穀豊穣を願う農耕の神であることから、日本に農耕が根付き、広まった頃にはすでに何らかの形で信仰されていたものだろう。
京都の名高い観光スポットは、多くがJR京都駅の北側のエリアに広がっているが、伏見稲荷は新幹線を挟んで反対側、京都駅の南側に位置している。にもかかわらず、国内外からの観光客…特に海外からのツーリストにとっては、かなり魅力的な場所に映るらしい。
伏見稲荷は鎮座する稲荷山全体をひとつの結界とし、山内に大小さまざまな社殿を配置していて、その間を参道でつないである。おおよそ2時間ほどでひと巡りできるが、その道中ではさまざまな風景に出会うことになる。鮮やかな朱に彩られた鳥居がびっしりと連なっていたり、石造りの小さな祠が無数に建ち並んでいたり。日常とはかけ離れた光景が、人を惹きつけて止まないのだろう。

霊験を得た者が御礼として鳥居を奉納する。その総数は一万ともいわれるが、今も増え続けている。
伏見稲荷といえば「千本鳥居」がその象徴だ。鳥居そのものは山内のいたるところで見ることができるが、それがすき間なく連なったさまはまさに圧巻で、実に画になる風景ともいえる。だがこの千本鳥居の奥深い魅力を感じたいのなら、陽光あふれる日中よりも、夕暮れどきに訪れてみることをおすすめする。
空から少しずつ明るさが消え落ち、そろそろ黄昏の闇が漂ってこようかという時、この千本鳥居をゆっくりと歩いてみる。鳥居の朱色が薄暗がりにくっきりと浮かび、言いようのない妖しい美しさを見せる。この世のものとも思えない鮮やかなトンネルを歩いていくと、そのまま異世界に導かれていくような、そんな錯覚を覚えることだろう。
もしかすると、ほんの少し先の鳥居の間から、異世界の住人がひょいと顔を出すような…。そんなファンタジックな想像も膨らませてくれるのだ。
冒頭でもお話ししたように伏見稲荷は山全体がひとつの施設であり、聖域となっている。そのため参道を少し外れた場所にも数多くの社があり、数々の神格が祀られている。そしてそれら大小の神々に多くの人々が祈りを捧げる。ある者は精神的な支えを求め、ある者は直接的な現世利益を求めて。そうした人の想いが稲荷山全体を覆い、何か現実離れした雰囲気を形づくっているのではないか…。そのようにも思えてしまうのだ。

Keep Faith to Bring About Miracle

真っ直ぐな人の想いが奇跡を生む

世界には数多くの宗教がある。イスラム教、仏教といったメジャーなものから、地域によっては単独発生的に起こった土着の宗教もある。複数の宗教が融合し、新たに生まれたものもある。さらにそれらの分派も含めたら、いったいどれほどの数になるか、想像もできない。
だが哲学的な側面を持つ「宗教」に比べ、日本の神道は「信仰」のウエイトが大きい。もちろん神職にある人々にとっては別次元の問題であるが、末端の信者にとっては難しい理論や思索よりも、八百万の神に畏敬を抱き、感謝を捧げ、利益を願うという、その行為そのものが重要なのだ。
さまざまな想いと願いを胸に、これまで多くの人々が伏見稲荷を訪れてきた。そして神に祈り、想いを届けようとしてきた。そのうちの何人かは明らかな霊験を感じ、また何人かは明確な御利益を手にして、その御礼として鳥居や祠を奉納してきた。その繰り返しが、現在の伏見稲荷を形づくっている。
こうなりたい、かくありたい…。真っ直ぐな人の想いは、時として「霊験」という奇跡を起こす。それはあなた自身を今までとは違う新しい世界へ、いざなう力をも発揮してくれるのだ。
稲荷神社の総本社であり、内外にも知られた京都の観光スポット。初詣の参拝者数は全国でもトップクラス。建造物に朱色を多用するのは稲荷神社の特徴のひとつであるが、それが見た目にも大きなインパクトを与え、強く長く記憶に残る場所として、衰えることのない人気を誇っている。
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