Insatiable Passion for Enjoyable Eating

飽くなき欲求が生み出した食の楽しみ

都心の喧噪から逃れるようにエレベーターに滑り込み、行き先階のボタンを押すと、音もなく扉が閉まり、箱はゆっくりと上昇を始める。しばしの後に扉が開くと、そこからは静かな食の空間が広がっていく。
東京・日本橋にあるマンダリン・オリエンタルホテル。その37階にある「センス」は、今や知る人ぞ知る広東料理の名店に数えられている。照明を落とした店内はリラックスした空気が漂い、大きな窓からは東京の夜景が一望できる。まるで空中に浮かぶ客船のラウンジにいるようだ。
またフロアの一角には、壁に大きな暖炉が三段になってはめ込まれ、その中であかあかとした炎が燃えていた。その炎と対を成すように、天井は金色で飾られている。
これは暖房などの実用的なものではなく、あくまでも風水上の配慮によるものだという。揺らめく炎と、ぼんやりと鈍い輝きを見せる金色との対比は、薄暗い空間に温かみと落ち着きを同時に与えてくれている。
テーブルにつき、まずはシャンパンを開ける。繊細なグラスの中で小さく弾ける泡の粒たちの、きまぐれなダンスにしばし見とれていると、ほどなくして最初の皿が運ばれてきた。…さて、今日はどんな美味しさに出会えるだろうか?

縦に長いフロアではあるが、周りが気になることはない。肩肘張らず、リラックスできる空間。
料理とは、おそらく人間の知性と欲求を最も判りやすい形で具現化したものだと思う。それが三つ星レストランで味わうものにせよ、ありふれたファーストフード店で口にするものにせよ、その根本は同じだと思うのだ。
太古の昔、料理は単に「火で焼く」ことから始まった。そして岩塩や海水で調味することを覚え、さらに香草や果実の汁などを使った、より複雑な味付けを覚えた。器が作られ、煮炊きができるようになると、調理法の幅は一気に広がった。それと同時に自分たちの身の回りにあるさまざまなもの…獣や魚、草や木の実が、食材として使われるようになった。そうした変化の背景には、増えていく集落の食料を常に確保しなくてはならないという必然があっただろう。
だがそれと同時に、「いろいろなものを、もっと美味しく」という、食への貪欲さが大きく作用していたはずだ。
その貪欲さは時代が下るにつれ、ますます盛んになった。あらゆるものがあらゆる調理法で料理され、取捨選択され、さらに洗練されていく。それら一連の作業を支えるものは気の遠くなるほどの長い時間と、食に関わる人々の知恵と努力にほかならない。そうした努力は今もなお、絶え間なく続けられているはずだ。

Beautiful Memories That Last Forever

記憶の中に残る美しい輝き

天井まで届く窓の向こうは美しい光の海。夜景とともに、伝統的かつ独創的な広東料理を楽しめる。
食の楽しさ、さらに言うなら「美味しさ」というものは、さまざまな要素に左右される。いつ、どこで、誰と一緒に。どんな器に、どのような盛りつけで。それら多くの条件が絡み合い、「美味しさ」へとつながっていく。大切な日に大切な人と味わうディナーは、やはり格別のものだろう。
だがやはり、料理は「味」が第一だ。素材、調理法、使用する調味料や調理の手際の良さ…。そのすべてを高レベルで満たしてこそ、素晴らしい一品ができあがる。
しかし「味」というものだけは、言葉で完全に表現することができない。味覚というものは人それぞれに違うのだし、さらに「好み」というものもある。こればかりはどんなに言葉を尽くしても、文章で正確に伝えることはできないのだ。
だからここで「センス」の素晴らしい品々について、言葉を並べることはしないでおく。そのかわり、あなたにもぜひ一度、この店を訪れていただきたいと思う。
何か嬉しいできごとがあったときに、あなたの大切な誰かと。そしてその落ち着きある空間と行き届いたサービスを楽しみ、窓外に広がる夜景を楽しみ、会話を楽しむ。長い長い時間と努力によって洗練された料理の一つ一つを楽しみ、それらすべてが一体となったひとときを、存分に楽しんでほしいのだ。それは日常の中の幸福なひとときとして、あなたの記憶に美しい輝きを残してくれるはずだから。
Special Thanks : MANDARIN ORIENTAL TOKYO +81-3-3270 8800 / CANTONESE DINING SENSE 0120-806-823
ディナー、ランチともに人気を博す「センス」。石垣島のハタや蝦夷ツブ貝などの魚介、黒毛和牛に鳩など、選びに選んだ食材をさまざまな調理法で絶妙なひと皿に仕立てる力量のゆえだろう。隣接するティーコーナーにはアジアンティーが豊富に揃えられており、中国菓子とともに楽しむことができる。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加  
  •   
  •  


The Exciting World of Beauty.
Kitamura Clinic
COPYRIGHT 2014 KITAMURA CLINIC ALL RIGHT.RESERVED. Reproduction or republications without explicit permission is prohibited.
掲載の記事・写真・イラスト等のすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。